インドは誰もが知る、南アジア随一の人口・面積を誇る大国。11億人を優に超える人口は、多種多様な人種と民族によって構成され、州境を超えると、文化や言語も異なっている程である。

そんなインドは今、驚異的なスピードで成長を遂げている。巨大な労働力に加え、世界が羨むほどに豊富な天然資源に恵まれている同国は、政治、軍事、そして経済的にもその存在感は確実に増してきている。
 
インドの成長は、同じアジアで急成長を遂げている中国ととかく比較されがちだが、大きく異なる点がいくつかあり、その中でも特に、民主主義を強く押し進めている点は興味深い。

例えば、都市開発時における立ち退きの強要など、政府による強権発動はまず無く、民主主義のプロセスにのっとり、基本的人権と生命の尊重に重きがおかれている。結果として、インフラ整備に遅れをきたすなどの問題が発生していることも事実であるが、民主主義をじっくり育てながら国力を強めるという事には、なんとも人間らしさが感じられ、共感が持てる人も多いのではないだろうか。
今回はそんな激動の時代におけるインドの犬事情を、人気ブログ『喜び犬インドをゆく』を通して覗いてみた。在インド歴十年を超える、コテコテの関西人でもある御主人と愛犬の『ポチオ』、そして気がつけば何時の間にか、インドに居座ってしまった著者のクリコさんがお届けする、まったり日記。

主人公の『ポチオ』は茨城生まれのインド育ち、おっとりとした性格で笑顔が何とも愛らしい魅力のラブラド−ルレトリ−バーだ。『ポチオ』の暑さにも負けずに奮闘する様子が、写真とともに日々紹介され、『ポチオ』を通して、インドでの生活が読者に手に取るように伝わってくる。
そしてあたかも自分自身が、実際に体験しているかのような、得も言われぬ不思議な感覚に陥る事がある。
著者のクリコさんは、インドの犬事情に限らず、ありとあらゆる情報を独特のノリで伝え記事にしていく。何気なく街角で売られている面白グッズから、インド文化に関するトピックス等と、実に幅広いジャンルを網羅している。

彼女が創り出す世界は、何とも言えない程、ほのぼのとしていてマイペース。だからこそ、読者をグイグイと引きつけて止まない魅力がある。いわゆる、『ゆるい記事』から『深刻な記事』まで、写真を使い淡々と紹介されていく。
重くて考えさせられる記事は、取っ付きにくく一般的には敬遠されがちだが、独特の記事構成と柔らかく包み込む写真が、重いテーマをもオブラートで包み込み、読者にも理解しやすいかたちで伝わってくる、なんとも不思議な感じだ。そして、記事を通して愛犬『ポチオ』への愛情もひしひしと伝わってくる。
さて、犬事情についてだが、インドと言えば、町には牛を始めとする様々な動物が、自由気侭に闊歩しているという印象が強いのではないだろうか。現にクリコさんのブログにも、野良犬に関するトピックスが度々登場する。インドでは、増えすぎた野良犬が社会問題にもなっているが、その相当数は、近隣住民などから何気ない世話を受けながらも、力強く生きるすべを学びとっている。言い換えれば、人間社会と実に上手く共生しているともいえる。

その一方、狂犬病対策などの問題を抱えている事も事実であるが、ある国のように、動物愛護精神に基づく安楽死という名目で貴い命が奪われるような事は無く、生命あるものを無闇に殺生したりする事もない。新しい生命が誕生すれば、人間であろうと野良犬あろうと貴重な命として尊重し、彼らが自力で生きられるようになるまでは、追い出すこともしないし、過剰な世話をするという事も無い。干渉しずぎず、育つ迄じっと見守っていると言った感じだ。そう、ただ優しく見守ってあげているのだ。 
この様な光景はインドでは実によく見られ、決して珍しいものではないが、はたして野良犬達の行く末は、どのようなものだろうか…。飼い犬に比べると、遥かに厳しい環境下にあるという現実は否めず、残念ながら、彼らの多くは成犬になるまで命を落していく。例え、成犬に育ったたとしても、過酷な生活が待ち受けている事に変わりは無い。人々の手助けはあるかも知れないが、都会の雑踏の中で、はたまた道端に落ちている残飯や、動物の死骸などを食べて生活して行かねばならない。彼らの多くは怪我を負い、皮膚病などの感染症を患っているケースも多く、彼らにとっても、自由と苦難とは紙一重である。

本来であれば、人間社会でより上手く共生できるように、予防接種や去勢・避妊手術、里親募集など行政の関与が求められる事項も数多く、急速な経済成長とは裏腹に、環境分野における改善すべき点は多く、問題は山積しているといえよう。
Q.

A.


インドでの犬生活は如何ですか? 
生活面や考え方等、日本との違いを感じる事はありますか?

インドの人は犬を家族の一員として可愛がるものの、擬人化して話しかけたりすることはあまりしませんので、私がポチオに何だかんだ話しかけていると、笑われてしまうことが多いです。本当は優雅にのんびりお散歩したいところですが、 外には様々なノラ動物がいるため、一時も気を抜けず、本当に苦労します。散歩中にノラ犬やその他の動物の感染症などの病気をもらってしまう事も多いです。

Q.


A.
ペット事情やペットに対する制度など、インドと日本では、かなり異なる部分があると思いますが、戸惑いなどを感じた事はありますか? また、日本と比べて良い点や悪いと感じる点は何でしょうか?
日本や他の国では、散歩中にウンチを拾うのが当たり前ですが、インドでは誰も拾いません。拾っていると逆に、ものすごく変な眼で見られてしまいます。 確かに、外はあらゆる所にウシやノラ犬のウンチが落ちてますからね(笑)。不便な点は、犬が入れる場所への制限が日本より厳しい事でしょうか。ドッグカフェやドッグランはありませんし、犬と泊まれるホテルもほとんどありません。公園ですら犬立ち入り禁止な所も多いです。その一方で、公園でノラ犬がのんびり暮らしてたりする所が何ともインドらしいです。 あとは、「立ち入り禁止」と言いつつも、交渉次第で何とでもなる可能性大な所も、インドらしいかな(笑)。 
 
 
 
Q.


A.
驚異的なスピードで、経済発展を遂げているインドですが、人々の犬に対する態度や、犬を取り巻く環境に変化はありますか? 又、その変化を直接感じた事はありますか?
所得が上がるにつれ、犬を飼う人も増えてきました。大きい犬はお金持ちのシンボルのようなイメージもあり、これまでは大型犬が主流でしたが、最近ではパグやミニチュアダックスなどの小型犬も多くなりました。衛生状態がよくなるにつれ、ノラ犬の存在を問題視する声も高まりつつあり、NGOを中心にノラ犬を保護する団体なども増えてきました。

Q.


A.
動物に対するカースト的な見方はあるのでしょうか?  例えば、インドでは牛は慕われ大事にされていると聞きますが、犬や他の動物の位置づけはどうでしょうか?
動物に対してカースト的な見方はありません。神様の乗り物であるウシも、基本は殺さない食べないという事だけで、例えばその辺にいるノラ犬を崇めたりと言う事はありません。街中には犬・ウシ・ブタ・リス・サル・ロバ…、本当に色んな動物がいますが、さり気なく道端にチャパティや余った食べ物を置いておく人も多く、それぞれが生きているものとして尊重されているように感じます。基本的にインド人は犬好きで、逆に猫は、ノラ猫も含め滅多に見かけません。
Q.
A.
犬と人間との理想的な関係とはどのようなものでしょうか?
お互いになくてはならない関係でいられたらと思います。私たちはワンコの事を、「世話してあげている」という風に思いがちですが、ワンコが与えてくれるものはそれ以上だと思っています。海外生活はやはり何かと孤独や不安を感じる事も多く、そんな時いつも傍に居てくれるポチオの傍に、私もどんなことがあっても居たいと思います。
 
国民性や文化、社会システム、どれを取ってもインドは実に奥深い。異文化圏の人達にとっては、理解しがたい点が多々あるものの、根本にあるものは、人の優しさや生命あるものへの敬意であり、そこから学ぶべき事は多い。

現に、インドのようにこれだけ多くの人口、宗教、言語や文化などを抱えていながら、小競り合いはあるものの、長い間一つの国として保っているのは、日々人々が、何気なく助け合いながら暮らしていることにあるのかも知れない。そこには、個々の生活や与えられた命を尊重しつつ、成長しつづける姿がみられる。
そんなインドではあるが、クリコさんの愛犬の様に、飼主からの無償の愛や、生涯安穏な生活が約束されている犬は、残念ながらそう多くはない。同じ与えられた命でありながら、無償の愛情を受け、すくすくと育っていく犬もあれば、そうで無い犬達もいる。

激動する社会において、切なく不条理に感じる事が多いかも知れないが、命あるものと共に生きる事の大切さ、責任感が少しでも多くの人々に芽生え、犬と人間との快適な生活空間が生まれることを切に願っている。

クリコさんの記事は、生まれ育った日本と、ポチオと共に今生活しているインドを淡々とではあるが、冷静に客観的な目で捉えているからこそ、読者の心を惹き付けて止まないのかも知れない。

■写真提供/取材協力 :クリコ ■ブログ:喜び犬インドをゆく