憧れの日本に移り住んでから、どれくらい経ったのだろうか。長い長い年月の間に様々な事を体験し、刺激を受けながらも異なる文化を受け容れ吸収したいと願い、日々無我夢中で走り続けてきた。戸惑う事も多々あったが、当時の日本は心に思い描いていた通りの国であった。

毎日が新しい発見の連続で、感動とときめきが常に僕の五感を刺激した。そこには人を思いやる人情や、長い歴史と共に培われてきた高い文化水準が存在していた。
そんなマルコさんの日本に対する印象を一変させたのは、渋谷区から足立区に移り住んだ時だった。当時の日本は、犬は番犬というのがごく一般的な見方であったのだが、マルコさんの目に映った光景は、余りにも衝撃的なものであった。短い鎖で庭先に繋がれ、身動きが取れない犬達。住み家を失って、道路や野原をさまよう痩せこけた捨て犬達。そして荒川の河川敷には、虐待や栄養失調などで亡くなった動物たちの腐乱死体。人間の身勝手な行動で、尊い命を失った動物たちがここにはいかに多いかということを思い知らされた。そしてこの様な現実は、移り住んだ足立区が特別なわけではなく、日本中のいたるところで、マルコさんの胸を痛めるようになる。

そう、日本は人間中心の社会、決して動物達にとって優しい国ではなかったのだ。現状を見かねたマルコさんは、尊い命を救うため昼夜を問わず必死に頑張った。捨て犬猫の保護、里親探し、区への訴えはもとより、時には劣悪な環境にある犬達を勝手に連れ出し、散歩をさせたこともあった。悲惨な状況を少しでも改善できると思えば、人から何と言われようとかまわず行動に出る日々の連続であったが、状況が改善される兆しは残念ながら少しも見られなかった。
確かに最近では、動物たちに対する姿勢や愛情に変化が見られるものの、動物愛護団体による活動だけでは、穴が一杯開いたバケツで水を運ぼうとするようなものだ。いくら頑張っても捨て犬や猫の数が減るわけではなく、毎年40万頭以上もの命が奪われている。その殆どが、保護者であるべき飼主の無責任や身勝手なエゴによるもので、彼らは受けるべきはずであった愛情を知らないまま、哀れな生涯を閉じるのである。

以前の山梨県の「犬捨て山」。マルコさんを始め、多くの方の献身的な活動によりずいぶんと改善された。
●現在の状況は、右の写真をクリックしてください。
日本にも、不幸な動物たちの救済活動に真剣に取り組んでいる団体は数多くあるが、動物愛護法改定後も、依然としてペットを物質扱いする行政の実態に対し、不信感を抱くボランティア活動家たちも多い。 事実、日本ではペットの繁殖や販売に関する規制は無く、動物保護法も多くの箇所で、ペット業界の利権保護の臭いがするという。

そんな状況下でもマルコさんは決して諦めず、世論と行政に訴えかけるための多彩な活動を展開している。そして少しでも不幸な動物達を減らそうと、「殺処分ゼロ」を目指した「動物愛護及び保護の改善マニフェスト」を提案しており、動物愛護団体や報道関係者をはじめ、鴨下元環境大臣にもそのマニフェストを提出している。

●「動物愛護及び保護の改善マニフェスト」の詳細は右の写真をクリックしてください。
Q.
A.




「動物愛護及び保護の改善マニフェスト」についてお聞かせ下さい。
日本の動物に関する諸問題は、先進諸国の中で例を見ないほどの社会問題であると考えており、動物愛護に関する抜本的な見直しを行わない限り、この底なし状態の現実を打破することは出来ません。コップからあふれ出る水を止めるには、スプーンでいくら水をすくっても埒が明きません。蛇口を止めるしか無いのです。

Q.

A.
日本のこの異常な現状の主な原因は何でしょうか? 何がEU諸国と違うのでしょうか?
1). 野放し状態にある生体販売業者や繁殖屋
2). 飼う資格の無い無責任な飼主
3). 実行力の無い人間中心の動物愛護法
4). 生命に関する教育のあり方、などがあげられます。
ヨーロッパでは、どんな命であっても尊重し敬うと言う事が幼い頃から徹底して教えられています。例えば、隣の家のペットや子供達が生命の危険にさらされた場合、日本では救済目的であっても、無断で他人の住居に侵入すれば、不法進入で訴えられる事がありますが、ヨーロッパでは違います。人や生命を救済する目的であれば、法律においても人道的な法律が優先されるのです。勿論、規則や法律を守るのは当然のことですが、命に勝るものは無いのです。
Q.
A.






野放し状態の生体販売業者とは具体的にどう言う事でしょうか?
ペットを購入するときのハードルを高くすることにより、無責任な飼主の数を減らすという事です。日本ではペットショップや大型のホームセンターなどでも、気軽にペットを購入することが出来ます。これは非常に危険なことなのです。ペットを飼う気は無かったのに、ただ可愛いと衝動的に購入してしまうケースがあります。犬や猫に対する知識も無く、飼って初めて自分の想像と違うからと手放す飼主が多いのもその為です。

Q.
A.

EU諸国にはペットショップはないのですか?
存在しますが、無責任や衝動買いをする人を無くす為、生体の販売は一切無く、グッズやフードの販売に限られています。どうしてもペットが欲しい場合には、希望犬種などの情報を事前に調査し、ペットショップから専門のブリーダーを紹介して貰います。そしてどんなに遠方であっても、飼主自らがブリーダーの所に出向き、飼主として適当であると判断された場合にのみ、販売が許可されます。
そう、マルコさんが提案するマニフェストには、何も特別な事項は存在しない。ただ、命あるものと暮らす責任の大切さを再認識させる為の提案なのです。ペットを社会の一員として認め、動物のあるがままの生き方を尊重し、彼らの生涯を請け負って共に暮らしていくだけの事なのです。

何も難しく考えることは無く、特別な接し方も必要ないという。人間同様に互いに信頼感があれば、動物達は飼主に絶対服従でストレスを感じる事も無く、バランスの取れた快適な生活を堪能できるという。
最後にマルコさんは問いかけてきた。
「ヨーロッパの犬と日本の犬の違いは何だと思います?」
「目ですよ! 目!」 マルコさんは言う。
「えっ!?」考え込んだ瞬間、彼は続けた。
「ヨーロッパの犬達はストレスも無く安心しきっているので、
 目が“とろ〜ん”としているんですよ 」と。

ふと我に返り周りを見渡すと、話に夢中で気付かなかったが、周りには何頭もの犬達が“とろ〜ん”とした目で、ただそこにいた。これが本来人間と動物のあるべき距離感なのだと実感すると共に、日本における動物達の現実を今一度直視し、無理なく自分に出来ることから取り組んで行きたいと強く感じた。

■写真提供:マルコ・ブルーノ(動物愛護支援の会 代表)、PETLINK / ■取材協力:マルコ・ブルーノ